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問われて名乗るもおこがましい

歌舞伎ファンが超歌舞伎2017『花街詞合鏡』を観た

www.chokaigi.jp

一年ぶり。
超歌舞伎の時だけ考察厨になる歌舞伎ファンです。
去年PC前で号泣し、今年こそはと思って行ってきた幕張メッセ
もちろん初めての超会議。今までの人生でお目に掛かった数を一瞬で超える量のレイヤーさん、説明を読んでも理解が追いつかない最新技術、目の前を横切っていく叶姉妹
よくわからないけど皆楽しそう。

 

 

※今回も長文です。暇つぶしにどうぞ。

 

 

お目当ての超歌舞伎は2ステ目と千穐楽に参戦。どちらも上手側特設花道揚幕の前の方、E・Jブロック。
超桟敷席という響きで入場券付4000円、このお得感素晴らしい。
歌舞伎側の客が圧倒的少数の会場でみるみる老若男女が集まる中、開演。

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舞台左右にあるモニターにはコメント付のリアルタイム配信映像が流れ、舞台上のミクさんが別アングルで映る。
現地ではスクリーンでやや立体的に映るにとどまる(それでも充分すごい)ミクさんが、カメラにアップで抜かれた時のその立体感には驚いた。
帰宅後配信を確認したところ、天井の芝居小屋を模した装飾や場内を飛び回る青龍など、現地ではわからない映像も組み込まれており、何やらすごい技術がたくさん使われていることぐらいは私にもわかる。

映像だけではない。客席で体験する場内中からの「萬屋!」「紀伊国屋!」はかなりグッときた。獅童さんはもとより國矢さんがニコニコユーザーから愛されすぎていて泣ける…
観客のテンションの高まりから発生しする大向う(掛け声)が、舞台を盛り上げ構成する一つの大事な要素になっていたのも興味深い。歌舞伎の間を吸収するのが早いのか、皆さま良い間で気持ちよかったw

あとから配信を見たら、さすがに客席の音量は絞られているし、役者がアップされる分周囲の役者や高さを使った演出のダイナミックさは伝わりにくい。屋台崩しや盆を回しての転換ができない環境でも、映像に頼りきらず、舞台両脇の幕の引き落としのようなアナログな手法が効果的に使われていたが、それも現地で全体が見えるからこそ気が付けた部分は多い。

逆に配信では、マイクを通して獅童さんや國矢さんの小さなうめき声まで聞ける。これは現地ではわからなかった。
最大の特徴はもちろん、視聴者のコメント付きで見られることだ。超歌舞伎では、リアルタイム視聴者が文字で大向うを掛け、声を上げ、疑問には答えを返し、普段黙って見ている歌舞伎ファンの心の声もかくやという目まぐるしさで展開していく。

このように、現地と配信先それぞれでここまで観客が十二分に楽しめる舞台もそうないのではないかと思う。



外題は『花街詞合鏡』(くるわことばあわせかがみ)。

昨年の『今昔饗宴千本桜』は初音ミクの「千本桜」という曲と、歌舞伎の「義経千本桜」の狐忠信パートを組み合わせた。
今年は重音テトの「吉原ラメント」。劇中は邦楽器アレンジのインストが数種類使用され、歌自体が流れることはない代わり、歌詞や曲中の花モチーフが台詞や衣裳に組み込まれた。

youtu.be

重音テトオリジナル 吉原ラメント (sm18395392) - ニコニコ大百科

 


当初ビジュアルだけを見た時は、ミクさんが『籠釣瓶花花街酔醒』の八ツ橋、獅童さんが『曽我綉侠御所染(御所五郎蔵)』の五郎蔵のようだなと思ったが、実際のストーリーも『御所五郎蔵』を中心に『鞘当』や昨年の千本桜の設定も組み込まれた構成。

歌舞伎では、『助六』の揚巻、『籠釣瓶』の八ツ橋に九重など女性でも圧巻の花魁道中があるが、超歌舞伎の前半、町娘のミクさんが見て憧れる花魁に『鞘当』の葛城太夫を持ってきたのが面白いなと思ったり。
なにより、映像で初音ミクの花魁が出てくる前に、女形(おんながた)=人間の男性が扮する花魁を舞台に出したのはチャレンジングではないだろうか。バーチャルキャラクターと実際の女形を同じラインで並べられるのは超歌舞伎ならではの強みだ。
そしてどアップにも耐えられる初音太夫の外八文字や舞の手つき。モーションキャプチャ組と映像技術の融合は今年も素晴らしかった。

 

さらに今回はミクさんのみならずテトさんも役者として登場。向日葵柄に紫陽花の簪という、持ち歌に由来の拵えで留女を演じた。

ボカロと違うと言われても具体的な技術面の違いもよく理解できていないが、案外さらっと話せるなという印象。男二人を止める重要な役どころにハマっていて(あれはチョイ役ではなくとても大事なポジション)、ワンシーンの登場ながら充分すぎるほどの活躍だった。




正直、、話としては昨年のほうが好みではあった。
吉原ラメントは、苦界に生きる女たちの抱える辛さが描かれた歌で、初音太夫の台詞でもその歌詞を用いた独白場面がある。だが、歌詞の世界観としてマッチするのはもう少し下の階級というか、吉原一の花魁たる初音太夫ははとっくに経験している道ではないだろうかと思ってしまった。

逆に、「間夫(まぶ)がなければ女郎は闇」「喩えて言わば雪と墨」と言い放って新右衛門をきっぱり振るような、太夫だからこその場面がもう少し見たかったなと思う。ミクさんと國矢さんの直接の絡みが無かったことは相当残念。

そしてアクションチームを四天に交えた立ち回り。スピーディーでパワフルな殺陣を長く見せると、それだけ観客もハイになって盛り上がる。嫌味な言い方をすれば、盛り上げやすい。青龍との直接対決に行く前に、縄や桶・棒を用いたオーソドックスなものや『蘭平物狂』のような派手めなもの、映像を重ねただんまり、ライトセーバーと布さらしetc.と盛り沢山。
全体の尺を考えても、もう少し後半の立ち回りを厳選し、葛城太夫の花魁道中の距離を伸ばしたり(私がもっと蝶紫さんを見たかっただけ)、初音太夫と新右衛門の直接の絡みを入れたり(そういう場面欲しかった…しつこい)と、ストーリー部分を手厚くしてもよかったのではないかと思った。
余談だが、今年は炎上場面以外の四天が黒い地味衣装だったため、“黒衣”と勘違いしている人も多い模様。

今回で言うなら最後、獅童さんが客席を煽りまくって腕を広げている間に、後ろから狐へのぶっかえり準備を手伝っている人を黒衣という

もう一つ、言っても仕方ないことは承知の上で、省エネ仕様の花魁道中やバランスの悪い両花道など、歌舞伎側の人数不足が残念だった…


千穐楽の舞台ではトリプルカーテンコールで「千本桜」が流れ、もはやライブ会場。
煽りまくる獅童さんだけでなく、舞台上ではミクさんテトさんも手をふりふりし、國矢さん蝶紫さんも実に嬉しそうで、振り返ればサイリウムが揺れていて、カーテンコールがめっきり増えた現代の歌舞伎公演の中でもこの光景はまた特別なものだなと噛み締めた。

 

 

とにかく、現地は舞台も客席も熱かった。
昨年の大反響から上がりに上がったハードルを、越えるというより蹴散らしていったのが今年の超歌舞伎だったと思う。

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最後にいくつかリンクを。
歌舞伎は毎月全国各地で上演されているが、今回の演目の元ネタ『御所五郎蔵』が近いところでは6月の歌舞伎座で掛かる。
仁左衛門さんの五郎蔵…!

六月大歌舞伎 | 歌舞伎座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

 


開演前流れていたのは、獅童さんも出演していた舞台のシネマ歌舞伎。これは古典や新作歌舞伎の舞台映像を、映画館でお手頃価格で見られるというもの。

シネマ歌舞伎 | 松竹

・『東海道中膝栗毛』(下はやじきたラップver.)

【6/3公開】シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛〈やじきた〉』予告編 - YouTube

Cinema Kabuki “YJKT” (6/3 公開 シネマ歌舞伎『やじきた』) - YouTube

コクーン歌舞伎東海道四谷怪談』(お岩さま)

NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』予告30秒 - YouTube


ほか、現在上演中の歌舞伎公演。
※歌舞伎公演は、興行名や演目名にあまり変更が無いため、普通に検索するとトップが数年前のページだったりする。これに関しては各所どうにかしていただきたいと思うが、現状は松竹の「歌舞伎美人」や国立劇場といった大元のトップページから入るか、「劇場名or演目名 2017年5月」のように年月まで入力するなどすると、比較的少ない手順でたどり着けるので参考までに。

国立劇場公演のように松竹のサイトに載らない公演もある。

歌舞伎座 

團菊祭五月大歌舞伎 | 歌舞伎座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

明治座 

明治座 五月花形歌舞伎 | 明治座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

大阪松竹座 

五月花形歌舞伎 | 大阪松竹座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

 

今月28日には、俳優祭恋ダンスでも話題の勘九郎さんたちが出演した、今年2月の歌舞伎座公演の地上波OAも。今回とはまたがらりと違った印象になるかと。言葉もわかりやすい。

テレビ出演情報 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

 


今年もミククラスタさんが歌舞伎とボカロの合同オフ会を計画してくれているので、顔を出せたらなと思っています。
オフ会文化に馴染みが無いこちら側の皆さま、昨年おそるおそる行ったらとても楽しかったので、少しでも興味があったらぜひ一緒に行きませんか。




最後にちょっと独り言。

以前から、歌舞伎界で新しい試みが起きるたびに「歌舞伎とは何か」という話が出る。とにかくわかりやすくする、コラボする、型から飛び出す…さまざまなやり方があり、試行錯誤が重ねられてきている。その問いはきっと、役者にも観客にも、いつの時代も投げかけられてきたものだ。

超歌舞伎を2年間観て感じるのは、歌舞伎の表現方法の奥深さ・豊富さだ。普段歌舞伎ファンが何気なく見ているものも、型が幾重にも繋がって構築されている。
種類が豊富ということは、新しいものが入ってきても、その良さを生かしながら逆に歌舞伎に当てはめる型や手法も何かしら見つかるということだ。
そして、これは完全に私個人の感想だが、獅童さんや藤間勘十郎さんはその当てはめ方がとても絶妙だと思う。

ここまで言っておいてあれだが、私自身は実はそこまで獅童さん贔屓ではない。しかも見慣れているからか古典作品の方が好きなものが多い。

 

それでもそう思うのは、その手法の豊富さに、これまでの伝統の積み重ねが見えるからだ。これまで何百年かけて継承されてきた芸に、今を生きる役者さんたちが今ならではの工夫を重ねて、今の私たち観客に届けてくれる。
“伝統”というだけで馬鹿にする人もいるが、重ねた年月と創意工夫の持つ力は伊達じゃない。
そんな、古典を観ている時には気付きにくいことをいつも以上に強く感じるから、私は超歌舞伎に惹かれるのだと思う。


じゃなきゃブログなど書かない。

 

 

【6/10追加】

6/9のEテレ「にっぽんの芸能」では、ニコ生の弾幕ごとNHKで超歌舞伎がOAされるという前代未聞の事態ががが。

見逃した方、6/12に再放送ありますよ!

にっぽんの芸能 - NHK

(弾幕に被って一瞬わけわからなくなってけど、長崎の地震大丈夫でしたでしょうか…)

 

↓その他テキストまとめて貼っておきます↓

※本エントリーは5月時点だったので、6月現在のものを参考までに。

 

☆皆さーーーん!!ここらへんの一連のくだり、今月歌舞伎座で掛かってる『御所五郎蔵』が元ネタだよーー!夜の部でこの幕だけ観られる当日券システム(幕見席)もあるよーー!!

歌舞伎座「六月大歌舞伎」幕見席のご案内 | 歌舞伎美人(かぶきびと) #超歌舞伎 #Eテレ

 

【超歌舞伎観てた方に直近のおすすめ】

現在歌舞伎上演中の劇場は

東京・歌舞伎座(今回の元ネタ『御所五郎蔵』も出てます、仁左衛門幸四郎吉右衛門ほか)

歌舞伎座「六月大歌舞伎」幕見席のご案内 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

同・国立劇場(解説付き鑑賞教室 #歌舞伎みたよ #せいせい)

平成29年6月歌舞伎鑑賞教室「歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)」

同・Bunkamuraシアターコクーン(海老蔵公演、國矢さんも出演中)

市川海老蔵 第四回自主公演 ABKAI2017

名古屋・平成中村座(昔ながらの芝居小屋、勘九郎七之助ほか)

名古屋平成中村座|東海テレビ

福岡・博多座(芝翫一家の襲名興行、菊五郎菊之助ほか)

六月博多座大歌舞伎 | 博多座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

 

☆あと今は、映画館で歌舞伎の舞台映像を見られる「シネマ歌舞伎」というので様々な演目が見られるのでオススメ。 今やってる「やじきた」の獅童さんも違う方向にパワフルですwこの間の俳優祭や今日の #超歌舞伎 に驚いた人も腰抜かすと思う

獅童さんの役がwww見ればわかる

東海道中膝栗毛〈やじきた〉 | 作品一覧 | シネマ歌舞伎 | 松竹

 

☆ワンピースだって初音ミクだってフィギュアスケートだって、ただ歌舞伎の敷居を下げるためだけに子供騙しなことしてたら伝わらない。

何百年かけて作り上げられてきた芸を次の世代に繋がなければいけない使命を負った方たちが、自分の芸を磨きながら全力で他のことにも挑戦するから格好いいんだよ